首元のナイフ
暑い日が続く。外に出ると、もう笑いがこみ上げる暑さだ。
でも、こんなにも暑い夏の暑さを来年の自分はほとんど忘れていて、また「暑い!」と言って暑さを思い出すのだろう。
いつもそうだ。もう何度も夏を経験しているのに、その匂いや光を、
「ああ、そうそうこんな感じだったな」という漠然とした感慨と共にまた新しく経験する。
僕たち、とは言わないけど、僕は、この身体に今まさに起きていることしか本当の意味では実感できないんだと改めて思う。全ては過ぎ去っていき、曖昧なリアリティが皮膚の表面を吹き去っていく。
"「人はなんで人を殺してはいけないんですか?」という人は自分の首にナイフを当てられながらもう一度同じ質問をすることを想像していない"という言葉が好きだ。
僕はあまり想像力がない人間なので、そういう突き刺さるような実感の中でしか想像ができないのかもしれない。
夏がまた始まりそして終わる
僕はこの暑さを忘れたくない忘れたくないよ
首元に突きつけられたナイフは少しの距離をとってわずかに震えている。
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